相続放棄,民法916条のいう「自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義
少し前にこのような判例がでております。
民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/855/088855_hanrei.pdf
従前から,次のような判例に従って実務を行っていました。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り,かつそのために自己が相続人と相続人となったことを覚知した時を指す。(大決大正15.8.3)
相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知った場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査すること等によって、相続すべき積極及び消極の財産(以下「相続財産」という。)の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知った時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。 (最判昭和59.4.27)
今回は再転相続の問題です。今回の判例と内容が違いますが,こちらも従前からの判例があります。
民法916条の規定は、甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合には、乙の法定相続人である丙のために、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、右のような丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。そうであってみれば、丙が乙の相続を放棄して、もはや乙の権利義務をなんら承継しなくなつた場合には、丙は、右の放棄によつて乙が有していた甲の相続についての承認または放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはや甲の相続につき承認または放棄をすることはできないといわざるをえないが、丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによつては乙の相続につき承認または放棄をするのになんら障害にならず、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼつて無効になることはないものと解するのが相当である。(最判昭和63.6.21)