当事務所ではあまり出てこない登記申請で「真正な登記名義の回復」という登記原因があります。めずらしく登記申請しましたので投稿しておきます。

判例では,不実無効な所有権の登記がある場合,真実の所有者はその無効の登記の名義人に対してその登記の抹消を請求しうるだけでなく,所有権移転の登記請求権も有するものと解しています。(最判昭和34.2.12)

このような判例理論に対応して,登記実務が認めた所有権移転登記の登記原因が「真正な登記名義の回復」です。

実務上よく聞く話は,実際は甲さんが不動産の購入者ですが,甲さんは自営業者等で銀行ローンが利用できないため,甲さんのお兄さんの乙さんを不動産の買主として,銀行ローン(抵当権等)を付けて不動産を購入するパターンです。銀行ローンは甲さんが返済していて,本当の不動産の購入者は甲さんというパターンです。

不動産登記の原則から言えば,誤っている登記は逆巻き式に正すのが原則ですので,乙さんの所有権登記を抹消し,新たに不動産の売主から甲さんへの売買を原因とする所有権移転登記をするべきなのですが,ここで問題がおきます。そうです。銀行ローン(銀行の抵当権等)が付いていますので,乙さんの所有権登記を抹消する前提で,銀行の抵当権等を抹消しなければなりません。銀行が話に応じてくれて抵当権等を抹消してくれればよいですが,通常は抵当権等の抹消に協力してくれません。

そこで,乙さんから甲さんへ抵当権を付けたまま所有権の移転登記を行うのです。その時の登記原因が「真正な登記名義の回復」です。

当事務所ではあまり出てきませんが,登記事項証明書等ではチョコチョコお見掛けいたします。

しかし,気を付けて下さい。不実登記を行った場合は・・・これは刑法違反です。つまり犯罪です。

(公正証書原本不実記載等)

刑法 第157条

  1. 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。