当事務所ではあまり出てこない不動産の登記申請ですが,売買契約の解除を行い,前所有者に所有権を復帰させる「合意解除」という登記原因があります。めずらしく登記申請しましたので投稿しておきます。

従前事情があって,不動産を兄弟間(兄から弟への売買)で売買契約を行い,所有権を移転していました。この売買契約は当然有効に成立しており,不動産の登記も,売買を原因として所有権移転登記が完了しておりました。今回,この売買契約を兄と弟で合意により解除したので,所有権を兄に復帰させるという登記申請を行います。

そこで,「解除」について少し考えてみました。

民 法

(解除権の行使)

第五四〇条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは,その解除は,相手方に対する意思表示によってする。

 前項の意思表示は,撤回することができない。

(解除の効果)

第五四五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし,第三者の権利を害することはできない。

 前項本文の場合において,金銭を返還するときは,その受領の時から利息を付さなければならない。

 解除権の行使は,損害賠償の請求を妨げない。

契約の解除とは,契約が成立したのち,契約当事者の一方の意思表示によって,契約関係を解消し,契約から生じた本来の債務を消滅させて,すでに履行されているものがあれば,その返還によって原状回復を行うことを目的とする法律行為です。

契約解除の効果については,学説上に少し対立があるようです。

①契約の解除によって,契約自体がその成立時に遡って消滅する(直接効果説)

②契約の解除によって,原状回復義務だけが生じ,その原状回復をしたことによって契約が当初から行われなかったのと同一の結果を生じることになる(間接効果説)

③契約の解除によって,将来に向かって債権債務を消滅させ,未履行債務については当然に消滅し,債務不履行責任が残ることになる。既履行債務については,返還請求権が発生し,原状回復義務が生じることになる(折衷説)

どの説をとっても,結果的には実務上大きな違いは無さそうで,判例は直接効果説をとっているようです。

解除された契約自体から生じた法律効果は,解除によって遡及的に消滅する。契約上の債権債務が消滅するのはもちろんの,契約によって権利の移転が生じたときはそれも当然に復帰する。(大判大6.10.27)

売買契約によって所有権の移転が生じたときは,解除によってそれは当然に売主に復帰する。(大判大6.12.27)

 

登記実務では,売買契約の解除(売主買主の合意による解除)が行われた場合,売買を原因として所有権移転登記がなされている所有権登記を「合意解除」を原因として抹消します。結果,一番最後の所有権登記が抹消されるため,前所有者の所有権(登記)が復活することになります。法律の規定通り忠実に処理されています。

少し脱線しますが,似たような不動産登記で,登記実務上“あれって“思うことがあります。もうお気づきでしょうか?その通りです。

(買戻しの特約)

第五七九条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

買戻し特約も買戻権者が“契約の解除”をすることができるとなっております。契約の解除ですから,当然抹消の方法により,所有権を復帰させるものと思いますが,登記実務では,抹消するのではなく,所有権移転登記を行います。

買戻特約履行の場合における登記は,売主(前所有者)のための所有権移転の登記によるべきであり,買主(現所有者)名義の登記の抹消登記の方法によるべきでない。(明治44.9.27)という先例があります。

このように,法律と登記実務では少し差がある場合がありますので,注意が必要です。

先例をもう一つ書いておきます。

強制競売による売却に基づく所有権移転登記について,現在の所有者と前所有者が共同して「合意解除」を原因として抹消登記を申請することはできない。(昭和36.6.16)